タンゴ世界選手権2020から見る、本場アルゼンチンのタンゴの問題点 Vol.421

前回の記事で、タンゴの世界選手権2020で、たくさんのアルゼンチンタンゴ関係者(特にアルゼンチン人)がボイコットした、という話をしました。

タンゴ世界選手権2020が閉幕ーあまり盛り上がらずに終わった理由 Vol.420

2020.09.02

詳しくは、前回の記事をご覧いただければと思いますが、要するに「ロックダウンで苦しむアルゼンチンのタンゴ業界をもっとサポートしてほしい」という思いが、ボイコットした人たちの中にあります。しかし、今回のコロナショックを機に、アルゼンチン人たちが、外国人に頼りすぎず、自国の文化を自分たちで守っていかないと、いつまで経っても根本的な問題解決にならないと、個人的に考えているので、今回はその本質的な話を説明したいと思います。

 


 

1、アルゼンチンの現状

アルゼンチン政府は、3月20日からロックダウンを開始し、規制の厳格さは多少変わったりしましたが、基本的には外出禁止で、9月9日時点(執筆時点)で、世界最長となっています。

タンゴ関係者たちは、政府の発表に先駆けて、3月10日より2週間、タンゴ関連のイベント全て中止することを決めたので、約半年、ロックダウンが続いていることになります。州によっては、経済活動が部分的に再開していますが、首都のブエノスアイレス市や隣のブエノスアイレス州では、感染拡大が止まらないため、人の移動が大きく制限され、経済活動に大きな支障が出ています。

「タンゴ」に関しては、人命に関わるような重要な産業からは一番遠いエンターテイメント産業であり、かつ三密が避けられにくいため、再開自体は最後の最後になる可能性が非常に高いでしょう。

かつ、タンゴの中心地である「ブエノスアイレス市」は、感染状況からも最後の最後に再開されるため、「ブエノスアイレス市」の「タンゴ」の再開時期は全く読めず、絶望的だと言えるでしょう。

  

2、アルゼンチン人ダンサーの反応

今まで世界を呼び回っていたダンサーも、全ての海外イベントが中止になり、ほとんどがアルゼンチンに戻っています。

ロックダウンが始まった3月、4月は、「もう少し経ったら、経済活動が再開されるだろう」と、楽観的な人がほとんどでしたが、ロックダウン期限が何回も延長されるにつれて、長期戦になっていくと、人々は徐々に気づき始めました。

ここで、二つのタイプの人が出てきました。埒があかず、オンラインレッスンやオンラインイベントを始めるダンサーと、何もしないダンサーです。割合で言うと、後者の方が圧倒的に多く、今もどうやって生活しているか正直よくわかりません。

ダンサーは幼い頃からタンゴしか踊ってこなくて、そのままプロになった人がほとんどです。ゆえに、学歴が低い人が多いため、転職して、タンゴダンサー以外の職業に就きにくいという現状があります。もちろんその一方で、普通に働きながら、タンゴを副業としている人たちもいます。

タンゴ学校を経営していた人たちは、対面でのクラスが全くできなくなったため、ほぼ全ての学校が、オンラインのクラスを始めました。試行錯誤しながらでしたが、生徒もオンラインに慣れてないことや、失業してタンゴどころではない人も出てきたため、依然として非常に苦しい経営状況を強いられています。

すでに、何個かのタンゴ学校が閉鎖を発表しています。

また、家賃を払い続けられないミロンガの会場なども、ニュースにはならないものの、永久的な閉鎖を余儀なくされているでしょう。

この状態が続いていくと、アルゼンチンのタンゴ文化がなくなってしまう、という危機感が生まれ始め、アルゼンチン国内のタンゴ関係者が組織を立ち上げ、イベントを行ったり、クラウドファンディングをしたり、政府に呼びかけたり、職のないタンゴダンサーたちに食料を無料で提供したりしています。

  

3、自国を蔑ろにした海外拠点ダンサー

世界各地にタンゴはあり、タンゴ関係者は苦しんでいます。

アルゼンチンだけではありません。現に日本でもあるタンゴスタジオが閉鎖を発表しています。

もちろん、アルゼンチンにたくさんあるミロンガは、できれば残って欲しいですが、このコロナ禍で、なくなっていってしまうのは、残念ではあり、非情ですが、仕方ありません。

自分の国の問題は、自分で守るべきという、大前提があると思います。

ここで本題ですが、アルゼンチンのタンゴの一番大きな問題は、内需つまり、自国のタンゴを蔑ろにしていた、ということでしょう。

自国より海外の方が稼げるとわかったダンサーたちが、海外を拠点に活動を始めました。彼らが帰ってくるのは、多くて8月と年末年始の2回です。それは、観光客がたくさん集まってくる時期でもあり、自国民のためではありません。そのため、繁忙期以外にアルゼンチンに行っても、YouTubeで見るような「超」有名なダンサーに会うことはほとんどありません。

タンゴの人気が、海外で高まったため、「アルゼンチン人」というだけで、ピンキリのダンサーたちが、国外で活動しています。

もちろん、タンゴは自国の文化であるので、アルゼンチンのダンサーの層は厚いのですが、質はまちまちです。同じチームに属していた、私の友人は、 「先生」としてカタールや中国に出稼ぎに行ってました。そこまで上手いとは思いません。そんなチャンスが、結構身近にあります。

超有名なダンサーは、ずっと海外にいるので、自国では知られていないこともよくあります。そんなダンサーが帰ってきても、自国の人たちは、見向きもせず、自国でずっと教えてきていた人に引き続き教わるでしょう。

私の先生の一人は、時々海外遠征するものの、拠点はアルゼンチンだったので、今でもたくさんの生徒がオンラインレッスンを受けています。

海外拠点だったダンサーは、戻ってきても、固定の生徒がいないため、結局外国人に依存して、経済活動をしていかなければなりませんが、他の地域ではオフラインのレッスンがすでに再開しているので、オンラインだけだと生徒が定着しない、という問題に直面しています。

   

4、今回のボイコットに関して

アルゼンチン人は、一時的な感情に左右して、よく考えず行動してしまうことがよくあります。今回も、「タンゴに対する政府の態度がよくない」という一方的な一つの記事を読んだだけで、すぐに「ボイコットする!」という行動につながりました。他の国より、熱しやすく冷めやすい国民性だと感じます。

政府について悪く言う人は多いのですが、そもそも「タンゴ世界選手権」というイベントをブエノスアイレス市が始めてから、間違いなくタンゴのために海外からアルゼンチンに来る人は増えました。それまでのタンゴは、一部の人が夜な夜な踊っているだけの、アルゼンチンの文化の一つ、という程度でしかありませんでした。

しかし、観光客が増えて、アルゼンチンタンゴが、アルゼンチンで一つの仕事として確立するようになりました。その恩恵を受けたことを忘れている人はたくさんいるでしょう。

もちろん、政府に言われる通りにしていれば、政府の思うままです。本年だけ問題がピックアップされていますが、こうした政府の良くない対応や態度は、今に始まったわけではありません。今回、改めて問題が浮き彫りになったので、問題を解決する良い機会でしょう。

今までバラバラだった、タンゴ関係者が、組織を作って、政府に対してロビー活動をしていけば、少しずつ状況は改善していくでしょう。

  

5、外需に依存しすぎず、自国の文化を自分たちで守るチャンス

寄付やクラウドファンディングを行う前に、もっと一人ひとりが自身で努力してほしいと思います。寄付は何回もできず限界があり、まずは自力で生活していく基盤を作らなければ、長期的に大変でしょう。

人によっては、タンゴで食えなければ、別の仕事を探すという決断も必要です。

こういう臨機応変さは、アルゼンチン人は歴史的に見ても、得意な部分なはずですが、それ以前の国民性の「怠け癖」から、自分の首を絞めているように見えます。

特定の個人やスタジオに思い入れがあり、サポートしたいというために、国内外から寄付などを行うことは良いことだと思います。それまでの彼らの活動や魅力が、人々にそうさせているからです。

しかし、「タンゴ文化やミロンガ会場を守る」のような抽象的な目的で、寄付などを集めるのは、結局外国人のお金を頼りにする形となり、根本的な自国の問題を一生解決できないで終わってしまいます。

今回が最初で最後の、自国の文化を自分たちで守るチャンスでしょう。

一刻も早く、世界中でタンゴの活動が再開することを祈っています。タンゴはやはり、視覚聴覚だけのオンラインでは代替できない最たるものだと、ヒシヒシと感じています。

  

以上です。

  

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